Rover Crew, 5th Setagaya

Rover Advisor's Essays

Feb. 2017:スキーと勉強 ―理論と実践―

1. BSスキー訓練

2017年もBSのスキー訓練に参加しました.そこでスカウトの皆にスキーを教えた際,あることを強調しました.それは,理論と実践の違いです.

スキーを学ぶ際,外足荷重や前傾姿勢などのコツを,理論(≒理由,理屈)と一緒に教わると思います.私も理論を大切に教えます.と同時に,理論だけではダメで,実践も必要であることを強調します.理論と実践の関係がどうなっているか,明確に理解し意識している人は案外少ないからです.

どういうことでしょうか?

スポーツにおいて実践が大事なのは当然です.どんなにスキーの理論に詳しくても,実践,すなわちトレーニングをしなければ上手くなるわけがありません.

では,スポーツにおいて理論は何の役に立つのでしょうか?

それは,トレーニングの効率に関係します.別にスキー理論を知らなくとも,何千本,何万本と滑れば,たしかにスキーは上達するでしょう.けれどもそれに対し,理論を知り自覚的にトレーニングした場合では,上達に必要な時間(滑走本数)が短縮されるのです.

理論と実践を別々の人間が受け持つ場合もあります.スポーツ科学や栄養学などをスポーツトレーナーが引き受け,トレーナーの指示に従ってアスリートがトレーニングするような場合です.

しかし,真に一流のアスリートになるためには,程度の差はあれ,やはりアスリート自身が理論を身につけていないといけないように思われます.例えば,イチローがバッティング理論に関して全く無自覚だった場合,才能とトレーニングと優秀なトレーナーだけであそこまでのスーパースターになれたでしょうか?

このようなわけで,BSスキー訓練で私は,「今から教える理屈だけで滑れるようにはならない.でも,これらの理屈を知って自覚的に練習すると,上達が早くなるよ」と,そういう風に言ったわけです.

2. 勉強会

私は毎月,BS隊・VS隊・RS隊を対象として勉強会を開催しています.基本的に何を勉強しても良い場ですが,私への質問は,圧倒的に算数・数学が多いです.それら質問に答えるときに強調するのが,やはり理論と実践の違いについてです.

質問に対し,解答・問題のポイント・公式の意義や導出・出題者の意図などを私は解説します.それで皆はすっきり納得するかもしれません.しかしそれは,理論が分かりやすく解説されたことによって,少し見通しがよくなったに過ぎません.それだけでは,問題を解く力は身につかないのです.

算数・数学に限らず,勉強一般において,「理解」の先には「体得」という段階があるのです.算数・数学で言えば,「とりあえず理屈は分かった」ということの先に「どんな問題でも解ける」という段階があるわけです.そしてスポーツと同じく,「体得」はトレーニングによって達成されます.すなわち,問題をたくさん解くという実践が必要なのです.

理論と実践の関係は,スポーツも勉強も基本的に同じです.少し違うのは,理論と実践の重要性のバランスが,スポーツでは実践寄りで,勉強では理論寄りだという点です.だから,スポーツでは理論が,勉強では実践が,おろそかになりがちです.実際,学校や塾で授業を受け,たくさんの理論を解説されてすっきりしたことを「体得」と勘違いする生徒はとても多いです.とんでもないことです!

上手い授業を受けて「理解」した状態は,計算ドリルによる実践の効率を上げ「体得」に必要な時間を短縮するという点で確かに有効です.しかし,トレーニング自体をおろそかにしては何の意味もありません.家で問題集を解く時間を大きく削って,学校と塾で1日中理論だけを「聴く」のは本末転倒です.このことは,とにかく強調したいと思います.

3. 大人になっても,ボーイスカウト活動でも

理論と実践の関係は,スポーツや勉強以外でも様々な形で問題となります.

例えば会社では,開発で働く人と現場で働く人が対立する,なんてことがあります.開発が理論で,現場が実践だとすれば,理論と実践の関係,つまり開発と現場の関係を良くすることが会社にとって大事だ,ということになります.

あるいは哲学では,形式知と暗黙知という呼び方でこの問題が研究されていて,最近では人工知能(AI)との関連で話題になっています.

ここではこれらについて詳しくは説明しませんが,理論と実践の関係は一生ついてまわる問題なのだということは言っておきたい.ですから,スカウトの皆はスポーツや勉強をする上で,この関係についてなるたけ自覚的であって欲しいと思います.それは,きっと,役に立ちます.

念を押します.やみくもに身体を動かすばかりで,頭を使わないアスリート.ひたすら授業を聴くばかりで,手を動かさない生徒.それではダメなのです.

最後に,このような観点で見たとき,ボーイスカウト活動にも理論と実践のバランス感覚を養うチャンスがたくさんあることを知って欲しいと思います.もうすぐB-P祭ですが,B-Pは理論と実践の関係をどう考えていたのか,『Scouting for Boys』を読んで探ってみてもいいかもしれませんね.

ローバー隊隊長 渡口要