Rover Crew, 5th Setagaya

Rover Advisor's Essays

May. 2017:B-Pとシャーロック・ホームズ,そしてアインシュタイン ―観察と推論―(第3回/全8回)

5. 「はかる」ことによって「みる」

さてここで,観測の中身について触れたいと思います.

ニュートンの時代,観測によって観る対象は「光」でした.あるいは光「によって」月や土星を観ていました.スカウトの皆が眼を使って普通に世界を見るためには光が必要ですね? 真っ暗だと何も見えません.

つまり人間は眼を使って光を見ている,あるいは光によって世界を見ているのです.

そのとき人間の眼は,外の世界から入ってくる光を適切に処理するレンズとしての役割をこなしています.これはニュートンの時代の望遠鏡と同じです.あるいはカメラも同様です.

正確に言えば,光の中でも「可視光」と呼ばれる種類の光を処理するためのレンズ機能が,人間の眼や望遠鏡やカメラには備わっています.可視光とは,簡単に言えば人間が視ることが可能な光のことです.大雑把に言って虹の7色のことだと思ってもらえれば良いです.

B-Pが想定した「見る」も,当然眼を使った可視光によるものでした.

ところが人間以外の動物の中には,人間にとっての可視光以外の光を視ることが出来るものたちがいます.その代表例は,マムシなどの一部のヘビです.

マムシは,人間には視えない赤外線を視ることを可能にするピット器官を持っています.赤外線は字面から分かる通り,虹の7色で言うところの赤色のさらに外側にある光です.赤外線を視ることが出来ると,温度を「色」として視ることが出来ます.

ジョン・マクティアナン監督の『プレデター』や,最近ではコリン・トレヴォロウ監督の『ジュラシック・ワールド』といった映画には,ピット器官あるいはそれと類似の器官を持っていると思しきプレデターやT-REXが登場します.彼らから姿を隠すために,主人公が泥水やガソリンで身体を冷やすのは,ハリウッド映画でおなじみのシーンです.主人公の敵である彼らは,赤外線あるいは温度「によって」主人公を視ようとするのです.

他方で人間の方も,20世紀の科学の進歩のおかげで,可視光以外の光によって対象を視ることが出来るようになってきました.

例えばサーモグラフィは蛇のピット器官と同じ機能を持っています.サーモグラフィで人間を視ると,温度が高いところが赤く,逆に低いところは青くなります.テレビなどでおなじみですね.

あるいは医療の世界にはレントゲン(X線撮影)があります.レントゲンはX線という特殊な光によって撮影する方法のことを言います.赤外線と逆側,虹の7色で言うと紫色のさらに外側にある光を紫外線と言いますが,その紫外線よりもさらに外側にある光がX線で,もちろん可視光ではありません.

X線はヴィルヘルム・レントゲンによって1895年に発見されました.X線は可視光に比べて透過性が高いため,可視光を通さないような厚い壁もすり抜けてしまいます.この性質のため,X線を使うと人間の身体の中をすり抜けて撮影出来るので,身体の中を調べることが出来るのです.レントゲンはこの発見によって1901年に第1回ノーベル物理学賞を受賞しています.

ここまで紹介したのは,可視光だったり赤外線だったりX線だったりしたものの,全て光によって対象を観察する方法でした.しかし,動物の中には光以外で対象を「視ている」と表現したくなるようなものたちもいます.

例えばこうもりは,人間には聞こえない超音波を発します(赤外線やX線は人間には視えない光でしたが,それの音バージョンです).そしてその超音波が周囲で反射して返ってくるのを聴くことで,かなり正確に周囲の様子を知ることが出来ます.音なのだから「視る」ではなく「聴く」なのですが,人間が耳から得る情報に比べてはるかに精確に虫の位置などを知ることが出来るため,音(超音波)によって世界を「視ている」と言いたくなるわけです.

ここで,視る行為によって人間が何をやっているのかについて考えてみましょう.実際に自分が眼で視て得る情報のことを考えると,それは物がどこにあるかとか,大きさはどれくらいかだとか,何色をしているかだとか,どんな表情をしているかとかいったことだと分かります.そして実は,これらは全て何かを測ることで得ている情報だということも分かります.

何を測っているのか?

それは距離だったり,方向だったり,長さだったりします.

色はどうでしょうか? 色は光の波長と呼ばれるある種の長さによって決まるので,やはり眼で長さを測っていることになります(実は,赤外線は波長が可視光よりも長い光,紫外線やX線は波長が可視光よりも短い光なのです).

表情はどうでしょうか? これも眼や口などの位置や角度の変化や頬の紅潮などから,相手が怒っているのか悲しんでいるのか喜んでいるのかを読み取っていると考えれば,やはり位置や角度や色(の波長)を測っていると言えるのです.

このように考えると「こうもりは音によって世界を視ている」という表現にももっと実質的な意味が与えられます.

1つには,音もまた色と同じく波長と呼ばれるある種の長さを持っているので,耳で音を聴くという行為も実は長さを「測っている」ということになる.この「音の長さ」は,音の「周波数」とか「オクターブ」とか「音程」とか「音階」といった言葉で示されるものです.

そして2つめに,こうもりはそのような音の測定によって,餌である虫の位置(距離や方向)を測っている.しかも眼で視ているかのような精確さで.この2つの意味で,こうもりは音を,あるいは音によって「測っている」のです.

「視る」ということを普通の意味よりももっと広く捉えて,「測ることによって情報を得るという行為」だと考えれば,確かにこうもりは音によって世界を視ていると言えるのです.

さて,可視光以外の光によって視る動物の例としてマムシを,光以外によって視る動物の例としてこうもりを紹介しました.しかし,彼らほどの精度では無いですが,人間もある程度このようなことが出来ることを,スカウトの皆は知っているはずです.

例えばそれは「気配」と呼ばれます.

眼をつぶっていても気配を感じることで周囲の状況をある程度推察出来ることは,一昨年に御胎内で開催した2015年BS夏キャンプに参加したスカウトなら知っていますね? そこでは石崎BS隊長の指導の下,足音や肌に当たる空気の流れの変化,そしてもしかしたら匂いをも感じ取って,自分の背後から近づく他人の存在を「視る」というゲームをやりました.逆に近づく方は,そのような気配を「消す」やり方を練習したのでした.

あるいは,目隠しをして森の中を裸足で歩く「暗夜行路」もやりました.暗夜行路はボーイスカウトでよくやるゲームです.何故これがボーイスカウトの定番プログラムなのか,ここまで読んだスカウトならよく分かると思います.

同じ人間でも,ある種の達人は視覚以外の情報を使って,かなり精確に周囲の様子をうかがい知ることが出来ます.

例えば武術の世界では「間合いをはかる」という表現がありますね.間合いをはかるときに最も頼りになるのが視覚であることは当然ですが,武人は視覚による相手との距離の情報取得以外にも五感を総動員し,様々な情報を総合的に判断していると考えられます.その総合的判断はとても複雑なので,なかなか科学的に明快な言葉で表現出来ない.なのでそのような総合的判断のことを「気」とか「第六感」とかいったりするのです.

ちなみに,間合いをはかるの「はかる」は漢字で書くとどうなるでしょうか? 間合いを計る・間合いを測る・間合いを図る・間合いを謀る・間合いを察る… どれか1つだけが正しい,ということはありません.むしろ今挙げたそれぞれの漢字が持つ意味やイメージが全て合わさったものとして,間合いを「はかる」という行為は成されているように思われます.

視覚以外の情報を使う別の例として「打音検査」の達人がいます.

打音検査とは,建物や鉄道車両の表面をハンマーで叩いて出た音を聴くことで異常がないか調べることを言います.スイカの表面をコンコン叩いて中身の熟れ具合を「視る」ことは皆さんもやったことがあるのではないでしょうか?

打音検査を達人に頼るのではなく機械化する試みも行われていますが,いまだ達人は必要とされているようです.実際,ヨットレースの世界大会で使われる日本代表のヨットは,技術者が毎晩ハンマーで叩いて異常の有無を検査しているそうです.

人間の中にも視覚(光)以外の情報を使って世界をかなり精確に視る達人たちがいることを紹介しましたが,人間は科学の力によって,光以外の方法で対象をとてつもなく精確に視ることを可能にしてきたことを最後に紹介しましょう.

既にサーモグラフィやレントゲンのことは書きましたが,これらは可視光ではないものの,光によって対象を視る方法であることは我々の眼と変わりませんでした.しかし,例えばエコー検査のような医療技術や電子顕微鏡と呼ばれる実験装置は光を使いません.では何を使うのか? 前者はこうもりと同じく超音波を使い,後者は文字通り「電子」を使うのです.

普通の顕微鏡(これを「光学顕微鏡」と呼びます)は観察したい対象に光を当てます.今まで何度も述べてきたように,光を視る,あるいは光によって視るのが光学顕微鏡です.

ここで「光を当てるって言うけど,そもそも光の正体って何だっけ?」と思うスカウトがいるかもしれません.これは説明するのがなかなか難しいですが,ここでは「光子と呼ばれる粒が集まって動くのが光(光線)だ」と思ってください(これは正確な説明ではありません.正確な話は私を含めた誰かに訊くか,ネット等で調べるかしてください).つまり光学顕微鏡は「光線に含まれている光子という粒を対象に当てたときの跳ね返り具合を調べることで対象を視ている」と(乱暴ですが)言えます.

以上のような光学顕微鏡の(乱暴な)説明と比較すれば,電子顕微鏡は次のように説明出来ます.すなわち電子顕微鏡は「電子線に含まれている電子という粒を対象に当てたときの跳ね返り具合を調べることで対象を視ている」のです.今までの表現を使えば,電子を視る,あるいは電子によって視るのが電子顕微鏡ということになります.

まとめるとこういうことです.

人間が元々持っている眼は基本的に可視光しか,あるいは可視光によってしか対象を視ることは出来ませんが,ここ数百年間に科学を発展させたおかげで,可視光以外の光を利用した観察(観測)はもちろんのこと,超音波や電子のような光以外のモノを利用した観察(観測)すらもある種の(実験)装置を使うことで出来るようになりました.

そしてこのような科学の発達による観察(観測)技術の向上は,多くの科学者が観察や推論を積み重ねて光や電子などの自然現象の謎を推し「察って」いく中で,様々な対象を様々なモノによって「測る」ことを可能にしていった歴史の,その素晴らしい成果なのです.

(つづく)

ローバー隊隊長 渡口要