Rover Crew, 5th Setagaya

Rover Scout's Essays

Apr. 2018:登山

このエッセイを書いているいま,私は3月下旬に行われるはずのボーイ隊の筑波山登山の計画書を同時に作成している。登山の計画書には,日時やルート,持ち物,細かな行程などのさまざまな情報を示す必要がある。

その計画書の中で,一番初めに書かなければならない「目的」という欄がある。私は何を書けばよいのか分からず,とりあえず「普段触れ合うことのできない自然や景色を楽しむ」とか,「山を登ることで体力,スキルを身につける」といったことを書いてみた。確かに,山に登ることで非日常を体験できるし,体力や登山スキルも身に付くだろう。

しかし,私はここで戸惑った。

「なぜボーイスカウト活動で登山をする必要があるのか?」

このエッセイを書くにあたって私は,ボーイスカウトにとっての登山の本質的な目的とは何か,を考えることにした。

第一に,自然や景色といった非日常を楽しむことや体力をつけること,登山スキルを身につけることが挙げられる。もちろんこれらも登山の重要な目的である。自然に囲まれた環境の中で過ごすことで,自然保護の大切さを学ぶことができる。また体力や登山技術を身につけることで,もっとハイレベルの山に挑戦しようという意欲が湧くだろう。

第二に,ボーイスカウトの登山では「協調性」を養うことができる。ボーイスカウトでは常に複数のスカウトで山に登る。すると,歩くのが速い人と遅い人に分かれてしまうことも多い。そんな時には,速い人が遅い人の荷物を持ってあげるなど,全員で協力して登頂・下山をしなければならない。こうしてスカウトはチームワークの重要さに気付き,協調性を養うのである。

第三に,「計画を立てる能力」が得られる。私も今まさに作っているのだが,登山をするにあたっては計画書を作成しなければならない。計画書は,それが無ければリーダーから登山の許可が出ないほど大切なものである。計画書といってもただなんとなく出発時間などを決めればよいわけではない。確実に実行できるよう,出来る限り正確な計画を練る必要がある。その際,どうすれば時間を削減できるか,などといったことを試行錯誤することで,より質の高い,余裕のある計画を立てられるようになる。

最後に,登山前に立てた計画をできるだけ確実に実行する能力も,ボーイスカウトの登山では身につく。計画に合うようペースを判断しながら歩く。寸分の狂いなく計画を実行できれば完璧な登山といえるが,もちろん予定が狂うこともある。例えば雨などで予定が遅れた場合,山頂まで行かずに下山するという決断も必要となる。このような判断力や決断力の組み合わせとしての「計画の実行力」が,登山を繰り返していくうちに染み付くのである。

以上のように,ボーイスカウトの登山にはさまざまな目的が挙げられる。

しかしよく考えると,文字通り「山(の頂上)に登ること」が登山の目的であることは最初から明確ではないか。上に示した第一の目的は,この文字通りの目的に比較的近い。

「山に登る」という自明の目的に対しては,第二・第三の「協調性」や「計画性」は実は手段である。目的と手段のどちらが大事なのかについては色々意見があるだろうが,こと訓練に関しては,「自明の目的=山に登ること」に対する手段の習得自体を,改めて目的と考えるべきである。つまり,登山に限らずボーイスカウト活動が常に訓練である以上,そこではいつも手段が目的化されるのである。

このことは,別の観点で見ると時間性の問題でもあるし,抽象度の問題でもある。

つまり第一の目的が「登っているまさにその時,つまりリアルタイムで体感できるもの」であるのに対し,第二・第三の目的は「登山を何度も繰り返して時間が経った後,事後的に気付くもの」である。また,リアルタイムで体感できるのは具体的な目的であり,それが故に意識しやすい。対して事後的に気付くものは抽象的な目的であるから,無意識的に身に付くものである。

私はボーイスカウトの登山にとって,第一の(自明の)目的=リアルタイムで具体的で意識的な目的は,表面的な目的だと思う。第二・第三の(手段の習得という)目的=事後的で抽象的で無意識的な目的こそが,本質的な目的なのだ。そして繰り返すが,このことは登山に限らない。

だから,ある程度の期間ボーイスカウト活動を続けないと,その本質的な目的には気付けない。そこで身に付く能力は,抽象的であるが故に実感しにくいものなのだ。

しかしだからこそ,これらの能力は社会に出てからも必要とされる。つまり,様々な場面で役に立つのだ。

ボーイスカウトの登山を通じて,まずは表面的な目的を達成し,そののちに本質的な目的にも気付けるようになって欲しい。そうすれば,最後に示した「実行力」,つまり目的と手段を一致させるためのもっとも重要な能力を,最短時間で身に付けることが出来るはずだ。

ローバー隊 清水虎之介